20世紀最高傑作『ロリータ』を読むには「ctrl+F」が欲しい (#554)
読み終わった感想は「なんだこの本、凄すぎるし頭おかしい」です。
20世紀最高の作品の1つにして20世紀最高の問題作と言われているこの『ロリータ』だけれど、その評価は完全に正解だと実感できた。
ネタバレにならない範囲で魅力を語ろう。
あらすじ
主人公ハンバートは小児性愛者なので、再婚相手の連れ子のロリータ13歳を思い通り(意味深)にしたい。
要するに、「ロリータ」「ロリコン」という言葉はこの本から生まれたわけだ。
色々あってアメリカを旅することになった2人の関係(意味深)や、姿を消したロリータを追い求める、ざっくりそんなストーリー。
何が凄いのか
まず言えるのが、この『ロリータ』はどんな切り口で読むかによって多面的な作品になるのが凄い。
解説文にも挙げられていたけれど、一作の中に多くのジャンルが破綻せず包含されている技術よ。
ロリコンおじさんの最悪性愛篇にも読めれば、生意気メスガキが大人を誑かす篇にも読めるし、ウィットに富んだ語り口のアメリカ道中記にも読めるし、消えたロリータを巡るミステリにも読める。
考えてみてほしいけれど、一般に優れた文章や創作を目指すならテーマはブレていない方が良いに決まっている。
名作と言われる作品ですら、作者が手グセで足しちゃったような「ここ要る?」って要素に心当たりがあるものは少なくない。
対してこの『ロリータ』は言うなれば全ページ手グセ。最悪。
話があちこちに飛ぶのは当然として、脚注がなければ理解できない古典や内輪ネタがアホほど盛り込まれていて読者を置き去りにしてくるし、
本編は作中主人公の日記という設定だから読者を全然想定していない言い訳も成立している。最悪。
多くの出版社が「これ要る?」って思った結果、フランスとイギリスでは発禁になりました。
つまり「全ページ不要」となり得る作品がそのレベルの高さゆえ「20世紀最高の作品」にひっくり返ったというわけだ、なんだその2択。
完全に理解するのは不可能です
凄さの延長でもあるのだけれど、この本一冊に詰め込まれたオマージュや仕掛けの数がすごく多い。
脚注があるとはいえ、「この作品のこういうセリフからの引用ですよ」と説明されたところで元ネタのシチュエーションを知らなければどうしたって解像度はボヤけたものになる。
しかし仕方がないのだ。すべてを理解するのは不可能。
例えばメッシの凄さを知るのにプロサッカー選手である必要はないのと同じで、真の凄さは実感できなくても雰囲気でメッシすげ〜〜とは分かる。僕たちは雰囲気でロリータを読んでいる。
ただ、張られた伏線や人物の登場シーンを回収するのがマジで困難だったからこれに関して21世紀ならば電子書籍が正解かもしれない。
こんなに「ctrl+F」が欲しいと思った本は『ロリータ』か日本史の教科書かって感じだ。「こいつ誰だよ」って思っても読み続けましょう。すべては雰囲気で解決できる。
いや〜
内容についての感想は一言、「スピード感」です。
生涯にわたる夢の実現が期待以上のものであったかどうかはさておき、それがある意味で標的を飛び越して、悪夢へと突き刺さってしまったのである。(P.250)
こればっかりは読まないと感じられるものではないので、生のスピード感を感じたい人はぜひ読んでみてください。責任は取りません。
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